月別アーカイブ: 2012年10月

江利子と絶対

お前らなんか前向きに見捨ててやる

「引きこもりというハンデを背負いながらポジティブに生きていく。引きこもってるのにポジティブ。いいとか悪いとかじゃなくて、なんか、こう、新しいでしょ?いじけてないところが人生を大事にしてる感じでしょ?ご飯も残さず食べるよ。充実した生活を送るよ。ねえ、どうかな。事故で死んだ人達もちょっと嬉しいよね。なんか喜ぶよね」
 喜ぶかなあと思ったが、この子の目がここ一ヵ月で見たこともないくらい輝いていたので、あたしはとりあえず頑張れと無責任に励ました。馬鹿な江利子はありがとうと頭を下げて固い握手を求めて来た。
「ああー、正しい。お姉ちゃん、なんか今、エリすごく正しい感じだよ」
 全てを伝え終わり、心臓に手を当てそう言うと、彼女は窓を開けて鼻から息を大きく吸い込んだ。そしてゆっくり二酸化炭素を吐き出し切った後、澄み切った目で階下を見渡し、
「お前らなんか前向きに見捨ててやる」
 と呟いて、花のように微笑んだ。

本谷有希子.江利子と絶対本谷有希子文学大全集(講談社文庫)

ねこです。

まえむき。
よい ことば です。
まえむき な ひと は みんな に すかれます。

うしろむき というと なんとなく いんしつ で じめじめしてます。
どうせ ぼくなんて!って いってる のびた です。

よこむき は ちょっと キザ です。
なんていうか しょうめん むいてるはずが つねに かみのけ よこむき の スネオって かんじです。

やっぱ まえむき です。
どんな に うた が へた でも みんな に いやがられても リサイタル を ひらく まえむきな しせい。
つまり ジャイアン です。まえむき こそ ジャイアニズム です。
ジャイアン が みんな に すかれてるか は なぞですが。

ネコ の くせに ネコがたロボット に あこがれず ジャイアン を めざす。
そんな ネコ が いっぴき くらい いたって いいじゃないですか(ちょっとだけ まえむき)。

蹴りたい背中

人にしてほしいことばっかりなんだ。人にやってあげたいことなんか、何一つ思い浮かばないくせに。

「速いねえ。いいなあ、悔しいなあ。」
 勝負が終わった後のさわやかな笑顔。全然悔しくなさそうに悔しいと言う。こうやってお互いをおだて合いっこすれば、仲良くはなれなくても、うまいことやっていけるんだろう。でもポニーテールの部員は、当惑したような笑顔のまま、すらっと私のそばを離れた。
「おい、自分に勝った奴をあんまり誉めると、負けぐせがつくぞ。」
 先生が声を飛ばした。
「練習の時にも悔しいと思う気持ちを持つことが大切だ。じゃないと本番でも馴れ合ってしまう。練習で闘志を剥き出しにするやり方を覚えるんだ。」
 先生はくそ真面目な顔で、一生懸命に言う。日頃ぼけていて、一瞬正気に戻ったおじいちゃんを見ているような気持ちになる。
「長谷川は練習を頑張るから、これから伸びるはずだ。」
 力強く言われて、不覚にもじんときた。先生から目をそらしながら、泣きそうになる。やっぱり先生は嫌いだ。
 認めてほしい。許してほしい。櫛にからまった髪の毛を一本一本取り除くように、私の心にからみつく黒い筋を指でつまみ取ってごみ箱に捨ててほしい。
 人にしてほしいことばっかりなんだ。人にやってあげたいことなんか、何一つ思い浮かばないくせに。

綿矢りさ.蹴りたい背中(河出文庫)

ねこです。

えさ が ほしい。
あそんで ほしい。
なでて ほしい。
ねこ が ひと に してほしいこと たくさん あります。
でも ねこ には おねいさん が なにすると よろこぶ か よく わかりません。
せみ を あげても あんまり よろこばないし
ごきぶり を つかまえても よろこばない です。
こおろぎ とか すずむし なら よろこんでくれるのかな?
そう おもって ほん を よんでいたら ひと が よろこぶこと わかりました!
どうやら くり や マツタケ を げんかん に おいておくと いいみたい!
さっそく とりに いってきます!

死神の精度

「自分と相手が同じことを考えたり、同じことを口走ったりすると、何だか幸せじゃないですか」

「わたし、土日とかいつも暇なんですよ。昨日は嘘をついちゃいました。すみません」彼女は頭を下げた。垂れ下がった前髪が、カフェオレに入るのではないか、と私は心配になる。
「いや」荻原がそこで軽快に言った。「そんなの嘘のうちに入りませんよ
「え?」
「僕の昔観た映画でこう言ってたんです」
 それは一昨日、私に聞かせたのと同じ内容だな、と気づき、種を知っている手品を目撃するような気恥ずかしさに襲われる。
「『誤りと嘘に大した違いはない』って。それから」荻原がそこで間を置き、つづきを口にしようとしたがそれより先に、古川朝美のほうが言葉を発した。
「『微妙な嘘は、ほとんど誤りに近い』ですね」
「あ」と驚いた荻原は一瞬、息を止め、しばらくした後で、「古川さんも」とかろうじて言った。
「ええ、意外に好きなんです、あの映画」と彼女も勢い良くうなずいた。
 そして、まるで二人で示し合わせたかのように、映画の題名を口にすると、その重なり具合にさらに感動したのか、同時に噴き出した。私はただそれを傍観している。「自分と相手が同じことを考えたり、同じことを口走ったりすると、何だか幸せじゃないですか」と言った荻原の言葉が、頭をよぎった。

伊坂幸太郎.死神の精度(文春文庫)

ねこです。

すきな おんがく や すきな えいが や すきな ゆうめいじん が いっしょ だと はなし が もりあがり ます。
どれくらい もりあがるかというと おおもりチャーハン くらい。

チャーハンと いえば ちゅうかりょうりやさん はいったときの かいわでも あらわれます。
「あ なんか チャーハン たべたいねー」
「いいねー」
「じゃあ おおもりチャーハン いっこ たのんで ふたり で わける?」
「そうしよう」
なかよし の しるし です。

じつは ねこ と おねいさん も き が あいます。
おはよう と いうと おはよう と いう
ごはんー と いうと ごはんー と いう
あそぼう と いうと あそぼう と いう
なに これ もしや かねこみすゞさん?