ワンクリ」カテゴリーアーカイブ

夕子ちゃんの近道

「長い名前の方が、やっきになって覚えたがるものさ」

 フラココ屋のメールアドレスは長い。furacoco-ya-yorozu-soroimasu。アットマークまでに二十八字もある。furacoco-yaだけで申請すればよかったと思うのだが、それでは目立たないと店長はいう。
「電話で苦情がきましたよ」何度うち直して送っても宛先不明の返信がくるって。
「駄衛門から?」店長の言い方には、どこかちょんまげの感じがあった。メールアドレスをうち間違えると宛先不明を知らせる返信があるのだが、その返信元の差出人名の欄にはかならず「MAILER-DAEMON」と書かれている。そんなはずないのだが僕も少し、ちょんまげを想像してしまう。
「でも、苦情ってその一件だけでしょう」名刺を配ったとき、長いアドレスはウケがいいのだと店長はメリットを主張した。僕も店長も店の奥にかがんで、段ボール段ボール箱から皿を出していた。皿はすべて新聞紙にくるまれている。
「長い名前の方が、やっきになって覚えたがるものさ」といって店長は手をとめ、寿限無を暗唱してみせた。
「寿限無寿限無五劫の擦り切れ海砂利水魚の水行末雲来末風来末……」店長はおしまいまでいわないと気がすまないという顔をしている。

長嶋有.夕子ちゃんの近道(講談社文庫)

ねこです。

おねいさん も ながい なまえ が だいすき です。

スリジャヤワルダナプラコッテ
きんちゅーならびにくげしょはっと
みなみあそみずのうまれるさとはくすいこうげんえき

ケータイ が なかった じだい は ともだち の でんわばんごう おぼえたり していたものですが
さいきん は めっきり そんなことも なくなりました。
なんでもかんでも スマートフォン に おぼえさせている おねいさん。
デジタルじだい の もうしごてき。

そんななか おねいさん も とし なのか スマートフォン に たよりきり だからか
ねんねん ものおぼえ が わるくなって きてます。
おぼえ が わるい どころか おぼえた ことも おもいだせない しまつ。

ほら あれ えーと……ぽくぽくぽくちーん
と いっきゅうさん が ひらめく じかん と ほぼ どうじ!

おそい!おそすぎます!
そのうち はるかな おぜ も ふゆ に ならないと おもいだせない ひ が くる。
そんな き が します。

絶対、最強の恋のうた

恋はスタンプカードのようなものだ、と私は思う。

「満月の夜、ぼらは跳ねるんだよ」
 彼はとても嬉しそうな表情で私を見た。月明かりの下、彼はとても嬉しそうな表情で私を見た。

 そのとき突然思ったのがスタンプカードのことだ。
 恋はスタンプカードのようなものだ、と私は思う。
 キスをして、好きだと思って、何かをわかり合って、優しい気持ちになって──。
 そんなことがある度に、私たちはスタンプを押す。一人で押すこともあるし、二人で押すこともある。スタンプが全て集まったら、次のカードをもらいにいこう。
いつまで続くのかな?密やかな気分で私は思う。このカードはいつか、かけがえのない何かと交換できる。そんな日がきっとくる。その日まで、私たちは小さな声で歌うのだ。

中村航.絶対、最強の恋のうた

ねこです。

おねいさん は ポイントカード の たぐい が すきです。
「ポイントカード おつくりしましょうか?」と とわれる と かんはつをいれず
「はい」と よい おへんじ を します。
たとえ ねん に 1かい しか こないような おみせでも つくって しまいます。
ふだん もちあるく ポイントカード の かずには げんかい が あるので
そういうのは ひきだし の おく に ねむってしまうのが おちです。
たいてい じかい いくときには もっていくのを わすれて もう1まい もらってくるのが おねいさん です。
そういうのも ぜんぶ ケータイ に とうろく できるように なる じだいは
あと なんねん まてば いいのかな?
おねいさん の ひきだし が うまる まえ に きてほしい です。

そのひまで ねこ は ちいさな こえ で うたいます。
CHAGE and ASKA の SAY YES の うたいだし を なんどもなんども ちいさな こえ で うたいます。

バスジャック

だからワシも、『野崎のおっちゃん』に飽きるわけにゃいかねえんだよな

「野崎さんは、動物園に勤めてどれくらいになるんですか?」
「ワシかい?ワシはこの動物園ができた時から働いてるよ」
「じゃあ、もう三十年も、ずっと?」
「そうだなあ、もうそんなになるかなあ」
 野崎さんは、お湯割りのおかわりをつくってもらいながら、特段の思い入れもなさげに応える。
「三十年って、長かったですか?」
「いやあ、三十年が五十年でも変わんねえよ。なぁんもね」
「そんなもの、かなぁ」
「ああ、インドゾウの『るうしぃ』なんざ、ワシと一緒に動物園に来たけど『もうゾウも飽きちまった』なんて言い出さないしなぁ」
 しごく真面目な顔で野崎さんが言うので、思わず噴き出してしまう。
「だからワシも、『野崎のおっちゃん』に飽きるわけにゃいかねえんだよな」
「そうかぁ。うん、そうですよね。自分に飽きるわけにはいかないか。そうだなぁ」
「ユズキさんはあれかい?ユズキさんに飽きちゃったんじゃねえのかい?」

三崎亜記.バスジャック(集英社文庫)

ねこです。

ひと は とし を とると どんどん じかん が はやく かんじるそうです。
5ねん が 10ねん に なり 20ねんまえ を しる としになると じぶん の つみかさねたものに びっくり してしまいます。
じぶん が うまれる 20ねんまえなんて そうぞう も つかないくらい かこ の ことで
れきし の いちぶでしか にんしき してないのに
いまや ことし うまれた こ の 20ねんまえ を かたることが できるのです。
10ねんまえ と いま は なんとなく つながっている きがするのに 20ねんまえ と いま は
すごく かけはなれて とおい きがするのは なぜでしょうね。

そんなこと を おもいながらも じぶん に あきるわけには いかないので
20ねん たとうが 30ねん たとうが じぶん は じぶん です。
ねこ も ねこ であることに ふまん は ありません が ちょっとだけ ライオン に あこがれます。
チカすぎちゃって どうしようって こまったり カワイくって どうしようって こまったり してみたいです。