終末のフール

こんなご時世、大事なのは」と杉田は答えた。「常識とか法律じゃなくて」といったん言葉を切り、子供が悪戯を仕掛けるような顔つきになったかと思うと、「いかに愉快に生きるかだ、と」

 兄がどういうつもりで、その案を受け入れたのか理解できなかった。けれど、杉田の家族が提案してきた脱出の方法に、兄は乗った。つまり、俺も乗った。
 浴室で、俺たちは天井を見上げている。杉田の妻と娘は、浴室の外に立っていた。
「うまくいく可能性は低いな」兄は達観した口調だった。
「きっと大丈夫」杉田は目を充血させ、畳んだ段ボールを俺に手渡した。それを持ったまま、この天井裏の通路を這っていけ、ということだった。「このまま、西に行った突き当たりが五〇一号だ。渡部さんには頼んでおいた。渡部さんとお父さんが、荷物を装って、一人ずつ運び出すことになっている」
「その渡部という男は、どうして協力してくれる?」兄が訊ねた。
「渡部さんのお父さんが以前、言っていたんだ。こんなご時世、大事なのは」と杉田は答えた。「常識とか法律じゃなくて」といったん言葉を切り、子供が悪戯を仕掛けるような顔つきになったかと思うと、「いかに愉快に生きるかだ、と」と片眉を上げた。

伊坂幸太郎.終末のフール(集英社文庫)

ねこです。

こんな ごじせい です。
「こーんな じだい や さかい やすぅ うるで~」と いっていた ビックカメラも
あれよあれよ と きゅーしゅーがっぺい して おおきくなり
ユニクロ と ていけい して「ビーックビックビック ビックロロロ」とかいう ゆかい な CM を ながしています。

なので ねこ も ゆかい に いきたいです。
「ジョーシキ」とか「ホーリツ」とか よく わかんないけど
トカゲ つかまえたり へい の うえ を あるいたり ろじうら を かっぽ したい です。

あれ?でも それって ねこ が いつも やってること です。
ああ なんと ねこ は もう ゆかい に いきてました。
ねこ は ただ めのまえ の こと に ねっしん です。

ブラバン

「アホ。誰がやる言うた。貸すだけじゃ。死んだら返せ」

 さらに三十分も経ってから、ようやく辻さんが戻ってきた。ロビィに現れたその姿は、僕が見てきた彼の姿のうち最も神々しかったといえる。右の肩に革のストラップを引っ掛け、左手ではあの愛用のエレキベースのネックを支えていた。僕のなかの無邪気で短絡的な僕が、ほら、やっぱり弾けるんじゃないかと歓声をあげたほどだ。しかしベースのボディを抑えつけている右腕の先には、先刻までと変わらぬシャツの結び目があった。
「他片」テーブルの前に来た彼は、左手だけで軽々と楽器を捧げた。二十五年前の僕が、遠くから近くから、その水面を漂っているような鈍い輝きを見つめ続けた、継ぎ接ぎベースだ。「聞きゃあおまえ、楽器も無いいうじゃないか。俺の後輩が無様なことすな。はあケースも捨ててしもうたが、繫げば音は出るじゃろ。持ってけ」
 僕は起立し、かぶりを振った。「貰えません」
「アホ。誰がやる言うた。貸すだけじゃ。死んだら返せ」

津原泰水.ブラバン(新潮文庫)

ねこです。

「だれ が おまえ に やる と いった。かすだけだ」
って セリフ は しょうせつ に かぎらず ドラマ や まんが でも よく でてきます。
「しんだら かえせ」
の ぶぶんに てれ と せんぱいとしての いげん みたいな ものが みえかくれ していて フフフンって かんじ です。

そういえば ねこ は このまえ おねいさん から あたらしい くびわ を もらいました。
うれしくて よろこんで いたら
「だれ が ねこ に あげる と いったの?かすだけだよ」
と いわれました。
がーん。

でも くびわ を かえした あと おねいさん は あの くびわ を なにに つかうのか……
ねこは き に なって よる も ねむれません。

夕子ちゃんの近道

「長い名前の方が、やっきになって覚えたがるものさ」

 フラココ屋のメールアドレスは長い。furacoco-ya-yorozu-soroimasu。アットマークまでに二十八字もある。furacoco-yaだけで申請すればよかったと思うのだが、それでは目立たないと店長はいう。
「電話で苦情がきましたよ」何度うち直して送っても宛先不明の返信がくるって。
「駄衛門から?」店長の言い方には、どこかちょんまげの感じがあった。メールアドレスをうち間違えると宛先不明を知らせる返信があるのだが、その返信元の差出人名の欄にはかならず「MAILER-DAEMON」と書かれている。そんなはずないのだが僕も少し、ちょんまげを想像してしまう。
「でも、苦情ってその一件だけでしょう」名刺を配ったとき、長いアドレスはウケがいいのだと店長はメリットを主張した。僕も店長も店の奥にかがんで、段ボール段ボール箱から皿を出していた。皿はすべて新聞紙にくるまれている。
「長い名前の方が、やっきになって覚えたがるものさ」といって店長は手をとめ、寿限無を暗唱してみせた。
「寿限無寿限無五劫の擦り切れ海砂利水魚の水行末雲来末風来末……」店長はおしまいまでいわないと気がすまないという顔をしている。

長嶋有.夕子ちゃんの近道(講談社文庫)

ねこです。

おねいさん も ながい なまえ が だいすき です。

スリジャヤワルダナプラコッテ
きんちゅーならびにくげしょはっと
みなみあそみずのうまれるさとはくすいこうげんえき

ケータイ が なかった じだい は ともだち の でんわばんごう おぼえたり していたものですが
さいきん は めっきり そんなことも なくなりました。
なんでもかんでも スマートフォン に おぼえさせている おねいさん。
デジタルじだい の もうしごてき。

そんななか おねいさん も とし なのか スマートフォン に たよりきり だからか
ねんねん ものおぼえ が わるくなって きてます。
おぼえ が わるい どころか おぼえた ことも おもいだせない しまつ。

ほら あれ えーと……ぽくぽくぽくちーん
と いっきゅうさん が ひらめく じかん と ほぼ どうじ!

おそい!おそすぎます!
そのうち はるかな おぜ も ふゆ に ならないと おもいだせない ひ が くる。
そんな き が します。