魔王

「偉い奴らは、ずる賢いから気をつけろってこと」

 蜜代っちが説明をするにはこういうことだった。数年前、猫田市で、市の象徴としての大きな像を作った。市の名産が鶏卵であったために、卵を持った鶏を芸術的にデフォルメした、立派な像だったらしい。「それなりに、悪くない像なんだけどね」と蜜代っちは言った。問題が起きたのは、それに名前をつける際だった。市長が命名しようとした、「ケイコ」という名が、市長の孫娘の名前と同じだったのだ。「鶏の子と書いて、ケイコだ、って市長は主張してたけど、胡散臭いよねえ。孫の名前を付けたかっただけなのよ、きっと」
「それで?」
「当然、市民の投票で決めようってことになったわけ。住民投票でね。で、いったいどこでどういう決定があったのか分からないけれど、投票の際には五つの候補があったの。『ケイコ』『ネコッ太』『猫田君』『鶏卵ちゃん』『ねこっけい』ってね」
「どれも酷いなあ」潤也君が苦笑する。
「つらい選択だね」私も顔をゆがめる。
「そうそう」蜜代っちは笑った後ですぐに真顔に戻り、「で、ケイコ支持派は、市長の関係者でみんな、団結してるでしょ。一方の、『市長の孫娘の名前は嫌だ』って思ってる他の市民はね、別に情報交換も意思の統一もやってないから、思い思いに投票するわけ」
「つまり、『ネコッ太』『猫田君』『鶏卵ちゃん』『ねこっけい』に分散しちゃったわけだ」潤也君は結果が推測できたのか、言った。「それにしても、どれも酷い」
「その通り。反対派の投票は四つに分散して、住民投票の結果は、『ケイコ』になったわけ。他の四つを足したら、断然、『ケイコ』票より多かったのに」蜜代っちはそこで、演出なのか無意識になのか、咳払いを一つした。「そこから得るべき、教訓は」
「下らないことで、住民投票をするなってこと?」潤也君が聞き返した。
「反対派も結束を固めないといけないってこと?」私も、彼女を見返す。
「偉い奴らは、ずる賢いから気をつけろってこと」蜜代っちが断定した。

伊坂幸太郎.魔王新装版(講談社文庫)

ねこです。

えらいか ら ずるがしこいのか ずるがしこい から えらく なれるのか
ねこには よく わかりません。
えらくて ずるがしこいと いうと いっきゅうさん の みずあめ を ひとりじめ していた おしょうさん を おもいだします。

おしょうさん が みずあめ どくせんしたいがために
これは どく だからと いっきゅうさんたち に みずあめ を たべさせないように いじわる するのです。
でも いっきゅうさんたち は おしょうさん が いない あいだ に みずあめ ぜんぶ なめて
そのうえ おしょうさん の たいせつ な ちゃわん を ゆか に たたきつけます。
それで おしょうさん が かえってきたら
「おしょうさん の たいせつ な ちゃわん わっちゃったので しのう と おもって どく を のんだけど しねない こまる」
って いう おしょうさん ダブルショック!な はなし。

この はなし を きくと ずるがしこい えらいひとにも ちえ で たたかえば  なんとかなる き が してきます。
ねこ も よい ちえ つけたいものです。

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