ワンクリ」カテゴリーアーカイブ

袋小路の男

なのにどうして目に見えるものを記録したくなるのかな

 リニア彗星とニート彗星が地球に接近していた。二つの彗星が同時に観測できるチャンスは滅多にない。彗星の見え方は近づいてからでないと判らないことが多いが、天文ファンにとってはそれも醍醐味の一つだった。双眼鏡と小型の望遠鏡望遠鏡で観測した二つの彗星は期待したほどの大きさではなかったが、まあこんなものかな、と二人は笑った。
 彼らは天文台の講習を何度か受けて望遠鏡操作資格を取得していたので、予約すれば深夜に望遠鏡を借りることが出来た。軸を北極星に向けた大型の望遠鏡は、リモコンで操作すると医療機器のような音をたてて星を追った。尾島はCCDカメラで時間をかけて渦巻き銀河の写真を撮るのを好んだ。M51通称子持ち銀河が、今回の彼らのお目当てだった。
「不思議だよな」
 暗闇のすぐ隣から尾島が言った。その声の調子からすると、彼の顔にはそこそこの写真が撮れそうな手応えを感じたときの誇らしげな表情が浮かんでいるに違いなかった。
「宇宙には普通の物質よりも、ダークマターとかダークエネルギーの方がずっと多い多いじゃないか、なのにどうして目に見えるものを記録したくなるのかな」
 全宇宙の密度のうち96%は目に見えないダークマター、ダークエネルギーが占めていると言われている。星はたった1%にすぎない。
「見たことを忘れたくないからだろ」と哲は言った。
「それじゃ答になってないぜ」
「社会にだって目に見えないことの方が多いよ」

絲山秋子.袋小路の男(講談社文庫)

ねこです。

ダークマターって なに?
ねこ は マタタビ の いっしゅだと おもっているよ。
なんかねー ひごうほう な マタタビ。
うちゅう の だいぶぶん は マタタビ。
うちゅう を ただよう マタタビ の におい。
にんげん は マタタビ に きょうみ ないから みようとも しない。

ねこ なら どこから マタタビ の におい が するんだろうって め を こらすよ!
もしかしたら ほんき で みようと すれば みえてくるものも あるのかな?
もしみえるなら ねこ は おねいさん の あたま の なか を みてみたいです。

まほろ駅前番外地

たしかに、便所見るとわかるんだよね

 岡夫人はようやく真相に気がついた。庭の奥のほうから、謎の液体入りペットボトルペットボトルを持って出てきたらしい助手。助手いわく水分も養分も充分なのに、弱ってしまった椿の木。居心地が悪そうだった多田。
「ごめんなさい。トイレをお貸しするってことを、すっかり忘れてました」
 と岡夫人は言った。
「んー、べつに」
 助手はうまそうに空に向かって煙を吐いた。「多田はどこの家でも、便所は借りないよ。俺はしたくなったら借りちゃうけど、そうすると多田がいやそうな顔するんだよね」
「まあ、どうして?」
「あんまりその家のことを知っちゃうのは、失礼だと思ってるんじゃない」
 助手は弧を描いてカニ歩きした。妙な動きだと思ったが、どうやら風向きの変化に応じて、煙が岡夫人のほうへ流れないよう気づかっているらしい。
「たしかに、便所見るとわかるんだよね」
「なにが?」
「どんな紙使ってるか、掃除してあるか、花が飾ってあったとしたら造花かどうか。そういうところから、そこんちの経済やマメさやセンスや、いろいろが」

三浦しをん.まほろ駅前番外地(文春文庫)

ねこです。

トイレ を みると そのいえ の こと が わかる らしいよ。
おねいさん は こども の ころ いえ は もちろん
えきビル の トイレ や じゅく の トイレ ありとあらゆる トイレ の
トイレットペーパー を さんかく に おること に いのち かけてたって。
どこで しったのか わからないけど つぎから つぎへ と さんかくおり。
あれって「おそうじ おわったよ」の おしらせでも あるので あるいみ めーわく。
ねこ の トイレ は トイレットペーパー ないので おねいさん の いたずらには まどわされませんのだ!

少女

――世界は広い。遠くまで逃げれば、なんとかなるでしょ

 あの日と同じ――。
 国道沿いを走り続け、人気のない日の落ちかけた公園に飛び込み、敦子はようやく足を止めた。
「ここまで来れば、大丈夫」
 大きく肩で息をしながら、敦子が言う。
「なにが……、大丈夫なの?わたしたちが……、おじさん……、刺したわけじゃないのに……」
 わたしも肩で息をしながら答える。走っているときは意識しなかったのに、立ち止まった途端、酸欠状態だ。視界はすっかり晴れ、今度は心臓が悲鳴をあげている。これでいい。魂はここにあるということなのだから。
 敦子が大きく深呼吸した。すっきりとした顔でわたしを見る。
「だって、警察とかに事情聴かれたりするのって、面倒くさいじゃん。こういうときはとりあえず、逃げとかなきゃ。――世界は広い。遠くまで逃げれば、なんとかなるでしょ」
 そう言うと、何がおもしろいのか、ゲラゲラと笑い出した。
 それにつられてわたしも笑った。
 あのときと同じ言葉――。死にたいとばかり思っていたわたしを道場から連れ出した敦子は、ひたすら走り続け、校区外の見たこともない場所で足を止めると、すっきりとしたりりしい顔で言ったのだ。
 ――世界は広い。遠くまで逃げれば、なんとかなるでしょ。
 わたしたちは笑い続けた。カラスの鳴き声がおかしくて、目の前を通りすぎていくカップルの身長差がおかしくて、欠けたベンチがおかしくて、『つぶつぶオレンジ』と書かれた空き缶がおかしくて、笑い続けた。

湊かなえ.少女(双葉文庫)

ねこです。

にげるがかち って ことば が あります。
でも がっこう で ならうことって にげずに たちむかいなさい ってこと ばっかり。
なにそれ いかりシンジくん?
たまには せけん から にげてみても いいんじゃないかな って
ねこは おもうよ。
にげてにげて とおいところまで きたら あたらしい せかい が ひろがるかも。
なにもかも いやに なったら いっそ おだきゅー で にげましょか。
そのさきには はこねゆもと が まってるよ。