月別アーカイブ: 2009年10月

100回泣くこと

悪いけど男子と女子ではジャンケンの場数が違うのだ。

 夜。
 月火水は彼女が夕飯を作り、木金は僕が作った。
 僕のレパートリーは薄かった。木曜にカレーを作り金曜にそれをさらうを繰り返し、すまんね、と謝った。まあ練習だから、と彼女は言った。もちろんこのままで終わる気はなくて、麻婆豆腐(木)、鶏肉のトマト煮(金)と、少しずつ作れるものを増やしていった。
 夕飯を終えると、ジャンケンをして皿を洗う者を決めた。
 正直言って洗いものはしたくなかった。僕は何気ない顔を装いながら、全力で勝ちにいき、三回に二回は確実に勝利していた。そのうち彼女は、おかしいな、と首を捻るようになった。
 単なる偶然だよと僕は主張したけど、それは嘘だった。ジャンケンを確率だと思っているうちは絶対に勝ち越すことはできない。悪いけど男子と女子ではジャンケンの場数が違うのだ。

中村航.100回泣くこと(小学館文庫)

ねこです。

いし は はさみ に かち
はさみ は かみ に かち
かみ は いし に かつ。
にんげん の せかい では もっとも ポピュラー な しょうぶごと の ひとつらしい です。
おねいさん いわく だんし は くだらないこと を すぐ ジャンケン で きめよう と する
だそうで

やすんでいる ひと の ぶん の きゅうしょく の のこった プリン を めぐって
こっそり がっこう に もちこんだ ゲーム を やる じゅんばん を めぐって
クラス で いちばん にんき の こ と いっしょ に いきものがかり を やる わく を めぐって

かずかず の しとう を くりひろげていたらしい です。
ほんとう に くだらない です。

そんなわけ で だんし は ばかず を ふんでいるぶん おとな に なっても
ジャンケン は つよい の ですが
おとな の せかい は ジャンケン で かっても ちょっと すなお に よろこべない
びみょう な くうき と いうのが あるので なかなか むずかしい です。
ほんき で よろこぶ と オトナゲない などと いわれてしまう ので
ちいさく ガッツポーズ が じゅうよう です。

ちなみ に おねいさん は ジャカジャカジャンケンせだい なので
1にち1ジャンケン していた ぶん いまのこ には まけない と ごうご してます。
そんなこと しゅちょう する おねいさん も ほんとう に オトナゲない です。

タンノイのエジンバラ

「一人だけ彼女いないのに、皆と一緒に二本足で歩いていたら、やりきれないじゃないのよ」

「じゃあ、グーフィっているだろう」
「いる。グーフィの消しゴムもってる」
「プルートってのもいるだろう」
「いる」
「両方、犬だよな」
「そうだよ」
「どうしてグーフィは二足歩行でミッキーとも会話ができるのに、プルートは四つ足で歩いてミッキーに飼われているんだろう」なんでだ?プルートがかわいそうじゃないか。前から漠然と感じていたことを訊ねてみた。すこし意地悪な質問をした気分でいた。しかし瀬奈はまったくめげず即座に
「そんなの決まっているじゃない。プルートには彼女がいないからだよ」といったので俺もさすがに返す言葉をなくした。
「一人だけ彼女いないのに、皆と一緒に二本足で歩いていたら、やりきれないじゃないのよ」

長嶋有.タンノイのエジンバラ(文春文庫(な47-2))

ねこです。

こいびと が いると 2ほんあし で あるいて よいらしいです。

ひこねじょう に いる かぶと を かぶった ネコ も
とびついても へいきな ちょんまげつきネコ も
にんげん に なりたい しろネコ も
2ほんあし で あるいている ので こいびと が いるんですね。

ねこ は ざんねん な ことに 4ほんあし ほこう です。

はやく こいびと を つくって 2ほんあし で あるいてみたい ものです。

でも きゅうに 2ほんあし で あるいたら こいびと が できたこと が
おねいさん に バレてしまうので
しばらく 4ほんあし で あるいて こいびと いないふり さくせん で いきます。

オーデュボンの祈り

「それでも、話は聞いてるって」

 僕たち二人が言い合う形になると、少年は興味を失ったように背を向けて、自分が立てたばかりのカカシに向かい合った。
「ゆーお」と彼は言った。それから何度か、それを繰り返した。
 彼は、優午を作りたがっているのだろう。単なる慰めで、模造品を作ろうとしているのではなくて、本当に優午に帰ってきてもらいたいのだろう。地面には、優午の優午的な成分が埋まっていて、カカシを立てればそこに染み上がってくるのではないか、と期待していたのかもしれない。
 僕と日比野はしばらく、なすすべもなく、かける言葉もなく、立っていた。
 夕日が沈む速度は、急激に速くなる。あたりが暗くなりはじめ、夜の鼻息すら聞こえてきそうだった。しばらくして日比野が、優午の名前を呼びつづける少年の肩を叩いた。
「きっと、人と話すのが面倒臭くなっちまったんだ」
 少年は振り向いた。泣いているわけでもない。強い意志を持った顔をしていた。日比野の目を正面から見上げる。
「あんまり呼ぶと、さすがの優午もうるさがるぜ」日比野はまた、少年を叩いた。「それでも、話は聞いてるって」
 少年は、じっと日比野を見つめていた。それから、ゆっくりと深くうなずいた。

伊坂幸太郎.オーデュボンの祈り(新潮文庫)

ねこです。

こどもと いうのは いつの じだいも かわいいものです。

かくいう おねいさん も こどものころ ほしがき を さんこう に、
あじ の なくなった ガム を てんぴぼし に すれば あじ が ふっかつ するかもしれない!
とばかりに きんじょ の ゆうしてっせん の トゲ に さして よくあさ を まちました。

とうぜん の ごとく あじ が もどるはずも なく、おねいさん は あじ の しない ガム を
わびしく かみしめたのでした。
そんな おねいさん だから しょうねん の きもち は いたいほど よく わかります。
おおきく なっても じゅんしん な こころ は もっていたい ものです。