ワンクリ」カテゴリーアーカイブ

少女

――世界は広い。遠くまで逃げれば、なんとかなるでしょ

 あの日と同じ――。
 国道沿いを走り続け、人気のない日の落ちかけた公園に飛び込み、敦子はようやく足を止めた。
「ここまで来れば、大丈夫」
 大きく肩で息をしながら、敦子が言う。
「なにが……、大丈夫なの?わたしたちが……、おじさん……、刺したわけじゃないのに……」
 わたしも肩で息をしながら答える。走っているときは意識しなかったのに、立ち止まった途端、酸欠状態だ。視界はすっかり晴れ、今度は心臓が悲鳴をあげている。これでいい。魂はここにあるということなのだから。
 敦子が大きく深呼吸した。すっきりとした顔でわたしを見る。
「だって、警察とかに事情聴かれたりするのって、面倒くさいじゃん。こういうときはとりあえず、逃げとかなきゃ。――世界は広い。遠くまで逃げれば、なんとかなるでしょ」
 そう言うと、何がおもしろいのか、ゲラゲラと笑い出した。
 それにつられてわたしも笑った。
 あのときと同じ言葉――。死にたいとばかり思っていたわたしを道場から連れ出した敦子は、ひたすら走り続け、校区外の見たこともない場所で足を止めると、すっきりとしたりりしい顔で言ったのだ。
 ――世界は広い。遠くまで逃げれば、なんとかなるでしょ。
 わたしたちは笑い続けた。カラスの鳴き声がおかしくて、目の前を通りすぎていくカップルの身長差がおかしくて、欠けたベンチがおかしくて、『つぶつぶオレンジ』と書かれた空き缶がおかしくて、笑い続けた。

湊かなえ.少女(双葉文庫)

ねこです。

にげるがかち って ことば が あります。
でも がっこう で ならうことって にげずに たちむかいなさい ってこと ばっかり。
なにそれ いかりシンジくん?
たまには せけん から にげてみても いいんじゃないかな って
ねこは おもうよ。
にげてにげて とおいところまで きたら あたらしい せかい が ひろがるかも。
なにもかも いやに なったら いっそ おだきゅー で にげましょか。
そのさきには はこねゆもと が まってるよ。

グラスホッパー

隠れているんじゃない。満を持してるんだ

「できれば、先に部屋に入って、待ち構えていてほしいんだと」
「待ち構えて?」
「梶さんは、その相手と部屋で二人きりになるのは、なるべく避けたいんだとよ。部屋に入ったらすぐに、終わりにしてほしいそうだ」
「二人きりになるのが怖い、ってのは、可愛い女しか言っちゃいけない台詞だろうが」
「今時、可愛い女の子、なんていねえよ。見たことあるか?」
「見たことはねえけど、どっかにいるんだろ」
「うるせえな。とにかくな、部屋に二人きりになるのが怖いって台詞は、政治家が口にしてもいいんだよ」
「はいはい」蝉は耳の穴を指で掻く。「政治家は何を言っても、罪には問われないからな」
「とにかく、あのホテルってのは、部屋一つに対して、鍵を二つ用意しているらしいんだよ。カードキーな。だから、おまえはフロントでそのうちの一枚を受け取って、部屋に入って、隠れてるってわけだ」
「隠れるのは好きじゃねえんだって」
「蝉ってのは、七年くらい地面に隠れてるんだろうが」
「隠れているんじゃない。満を持してるんだ」

伊坂幸太郎.グラスホッパー(角川文庫)

ねこです。
「まん を じす」とは じゅうぶん に ようい を して きかい を まつこと らしいです。
ゆき が ふると ねこ は こたつ で まるくなるなんて うたわれますが
あれ も じつ は 「まん を じし」てるんですよ?
おうち の なか で たいりょく を おんぞん しておいて
ゆき の ひ に にわ かけまわって つかれている いぬ たち を しりめ に
はれたら あきち ひとりじめ です。
ねこってば いがい と さくし です。

凸凹デイズ

これは心の汗だもん

「ねえ、クロ」
 黒川はキーボードを叩く手をとめた。「取らぬ狸の皮算用」
「なによ」と醐宮。
「おまえはもう賞をとったつもりでしゃべってる」
「とれるよ、ぜったい」
 はあと黒川はため息をついた。そして言った。「賞とったらほんとうに幸せになれるのか。おれたち三人」
「もちろんだよ」醐宮の声が震えていた。泣いているのかもしれない。
 黒川はたちあがり、台所へとむかった。なにをするのかと思いきや、ガリガリ君を三本、もってもどってきた。
「ほら」無愛想に、醐宮と大滝に一本ずつ渡した。
「泣くな、莫迦」黒川は容赦ない。「まだ酒が残ってんだろ」
「泣いてないよ」ぐずぐずと鼻をならしながら醐宮が言った。
「泣いてんだろが」
「これは心の汗だもん」

山本幸久.凸凹デイズ(文春文庫)

ねこです。

アセ と いえば せいしゅん です。
ダッシュ→いいアセ→シーブリーズ!です。

おねいさん が ちゅうがくせい の とき アセ を かくと きれい に かみのけ が ぴんぴん たつ おとこのこ が いました。
まるで はりねずみのようでした。
ちょっぴりあこがれでした。
ヘッジホッグヘアーに。

おねいさん は アセ を かいても だらだら くびすじ から たれてくるだけなので なんとも ざんねん です。
なんかこう すいてき が うっすら うかぶ と ちょっぴ りせくしー なのに。
だらだら アセ ながしながら せんぷうき の まえ で かんビール。
せくしーとは ほどとおいので もう ちょっと がんばりましょう。