少女

――世界は広い。遠くまで逃げれば、なんとかなるでしょ

 あの日と同じ――。
 国道沿いを走り続け、人気のない日の落ちかけた公園に飛び込み、敦子はようやく足を止めた。
「ここまで来れば、大丈夫」
 大きく肩で息をしながら、敦子が言う。
「なにが……、大丈夫なの?わたしたちが……、おじさん……、刺したわけじゃないのに……」
 わたしも肩で息をしながら答える。走っているときは意識しなかったのに、立ち止まった途端、酸欠状態だ。視界はすっかり晴れ、今度は心臓が悲鳴をあげている。これでいい。魂はここにあるということなのだから。
 敦子が大きく深呼吸した。すっきりとした顔でわたしを見る。
「だって、警察とかに事情聴かれたりするのって、面倒くさいじゃん。こういうときはとりあえず、逃げとかなきゃ。――世界は広い。遠くまで逃げれば、なんとかなるでしょ」
 そう言うと、何がおもしろいのか、ゲラゲラと笑い出した。
 それにつられてわたしも笑った。
 あのときと同じ言葉――。死にたいとばかり思っていたわたしを道場から連れ出した敦子は、ひたすら走り続け、校区外の見たこともない場所で足を止めると、すっきりとしたりりしい顔で言ったのだ。
 ――世界は広い。遠くまで逃げれば、なんとかなるでしょ。
 わたしたちは笑い続けた。カラスの鳴き声がおかしくて、目の前を通りすぎていくカップルの身長差がおかしくて、欠けたベンチがおかしくて、『つぶつぶオレンジ』と書かれた空き缶がおかしくて、笑い続けた。

湊かなえ.少女(双葉文庫)

ねこです。

にげるがかち って ことば が あります。
でも がっこう で ならうことって にげずに たちむかいなさい ってこと ばっかり。
なにそれ いかりシンジくん?
たまには せけん から にげてみても いいんじゃないかな って
ねこは おもうよ。
にげてにげて とおいところまで きたら あたらしい せかい が ひろがるかも。
なにもかも いやに なったら いっそ おだきゅー で にげましょか。
そのさきには はこねゆもと が まってるよ。

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