キッドナップ・ツアー

ほかのすごく大事なことを選べるようになると、選べなかったことなんかどうでもよくなっちゃうの

 どうして母親とかきょうだいとか、自分で選べないんだろうって、何度も考えた。だってずっといっしょにいる、すごく大事なものなのに、それだけは、絶対に選べないんだよ。友達は選べる。服だって、食べ物だって、学校だって、なんだってその気になれば自分で選べるのに、家族だけは選べない。それってちょっと、ちょっと、まちがってるんじゃないのって、私はずっと考えてる子供だったの。
 ゆうこちゃんになぜそんな話を突然するのかときくことはできなかった。なぜだか私はそのときとてもどきどきしていた。もっと続きがききたかった。それで?ときこうとしたときピザが運ばれてきて、さあ食べよう、とゆうこちゃんは言った。
 今もきらいなの、私はピザを一切れ食べたところでゆうこちゃんにきいた。
 きらいじゃない、それほど。ゆうこちゃんは答えた。
 なんで?もう一度きくと、ゆうこちゃんはいつもの、秘密をこっそり打ち明けるような顔つきで、ほかにすごく好きなひとができたから、と答えた。
 何それ、全然わかんない、私は言った。ゆうこちゃんはピザのチーズをうんと伸ばしてみせて、でしょうね、と笑った。ゆうこちゃんはピザを飲みこんでからもう一本ワインをたのみ、それもまたぐいぐいと飲んでしまい、こう言った。
 ほかのすごく大事なことを選べるようになると、選べなかったことなんかどうでもよくなっちゃうの、きらいなら忘れちゃってもいいんだし、好きならいっしょにいてもいいんだし。それくらいどうでもよくなって考えてみると、それほどきらいでもないってことがわかったから。だから私、よくあんたんちに遊びにいくでしょ。

角田光代.キッドナップ・ツアー(新潮文庫)

ねこです。
えらべるように なってくると じぶん の えらんだもの いがい
けっこう どーでも よくなってくるもの。
おねいさん も じっか の ときは いろいろ もんく いってたけど
ひとりぐらし してから あんまり もんく いわなくなったよ。
ちなみに ひと が きょうだい を えらべないように
ネコ も かいぬし を えらべません。
ねこ は おねいさん の おかげで わりと じゆうに やっています。
そと を さんぽ したり いえ で おひるね したり
いんたーねっと を したり まんきつ してます。
おねいさんには かんしゃ かんしゃです。

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